「自分の記憶にあるこの景色をなくしたくない」宇和島市吉田町でみかん農家×​​アパレルブランドTangerine(タンジェリン)を手掛ける若松 優一朗さんの想いとは

若松 優一朗(ゆういちろう)
1993年3月生まれ。愛媛県宇和島市吉田町出身。
吉田町でみかん農家をしながら、自身の主軸でもある“スケートカルチャー”と“みかん”をコンセプトとしたオリジナルアパレルブランド「Tangerine(タンジェリン)」を手掛ける。
Tangerine(タンジェリン)では、地元産のみかんをジュースやアイスクリーム等の加工品とし、日本各地でイベントを開催したり参加したりしている。

みかん農家×アパレル。異色のかけ合わせを手掛けながら現在は宇和島市吉田町にUターンをして暮らす若松さん。どのようにして“今”にたどり着いたのでしょうか。

人を惹きつけるフランクな人柄と、柔らかな瞳の奥に見える意志の強さ。
今回は、Uターンをして活動的に過ごされている若松 優一朗さん自身のことをお伺いしました。

目次

この景色をなくしたくないし、「あれ、地元ってすごくいいじゃんと気がついて

若松さんの10代を教えてください。

高校生のときは愛媛を離れたいと思っていたんです。元々洋服や音楽が好きだったのですが、地元にはそういったカルチャーに注目した情報がなかったので、「なんかつまんないな」と思いながら暮らしていました。
愛媛が嫌いだったわけではないのですが、自分が今いる場所はここじゃない、と。

そのあと、野球推薦で千葉の観光学部がある大学に進学したのですが、寮に入って初日で監督と喧嘩、その流れで数ヶ月後に退部してしまって。正しい、正しくないは関係なく、”監督が正解”だといった風潮にショックを受けました。
そのとき、「明日からどうしよう」みたいなすごく大きな絶望感を味わったんです。
野球の推薦で進学して今ここにいるのに、「自分がやりたいことってなんだろう」と、わからなくなりました。
一方で、音楽や英語、映画が好きだし、だったら英語を話せるようになりたいな、と思ってカナダ留学を視野に入れて、次の日から勉強に力を入れ始めました。
今まではルールに沿って生きてたらある程度の道があったけれど、目の前の道が全て崩れたことで、自分で考えて何かを選択をし、自分と向き合うきっかけになった初めての経験でした。

その後、19歳〜20歳にかけてカナダへ留学してさらに視野が広がりました。自分の意見を臆せず伝えて良いんだ、やりたいことやっていいんだみたいな感覚ですね。

大学進学時にいつか愛媛に戻ることは考えていたのでしょうか。

最初は将来設計が何もないまま、とりあえず地元を出ました。しかし、大学で観光学を学ぶうちに「あれ、地元ってすごくいいじゃん」と思うようになって。僕の父と母は農家ではないのですが、祖母がみかん農家だったので、小さい頃からみかんのある景色に触れて育ったんです。自分の記憶にあるこの景色をなくしたくないと思い、大学生のときに祖母のみかん農家を継ぐことを決意しました。

若松さんの山。広々としていました。

みかん農家を継ぐと決めてからは、いずれ愛媛に戻ることを念頭に置いて、何か活かせないかな、と常に考えながら自分の好きなことをやり続けてきましたね。

ただ、Uターンをするにあたって、何か違う選択肢をもった上で地元に戻った方が面白いなと思ったんです。なので、大学卒業後にアパレル業→宿泊業→飲食業など色々な業界のアルバイトを経たのち、オーストラリアでワーキングホリデーを利用してコーヒーファームで働きながら、大好きなスケートボードを存分に楽しんで、26歳で吉田町に戻ってきました。

実は、その過程で自分の好きなことを追いかけていたら、ありがたいことに各地で友人がだんだん増えていったんです。それはそれですごく楽しいことだなと思ったのですが、自分にとって大切にしたい特別なもの、土地とか家族とか暮らしてきた場所とかはやっぱり愛媛にあったので、自然と愛媛に戻る選択肢が出てきましたね。

吉田町で採れたブラッドオレンジを100%使用した、Tangerine新作のみかんジュース。

「農業xアート」で自分にしかできないことを

大学入学から吉田町に26歳でUターンするまで、密度がギュッと凝縮されていますね。ではなぜ「農業xアート」「農業xアパレル」で掛け合わせようと考えたのでしょうか。

吉田町を初めて訪れたときに感動してもらえたら嬉しいなと思っているんです。
例えば、今日(2023年5月取材時)は雨が降っていますが、4~5月くらいの晴れている日だと、一面に広がったみかんの花からとても良い香りがするんですよ。

4~5月に咲くみかんの花

また、9月頃から畑がオレンジ色に染まっていくので、すごく可愛らしくて最高の眺めになります。
僕は、自然の匂いとか五感を通して楽しめるこの景色が大好きなんです。
でも、それだけだとどの地方にもある”要素”になってしまうので、自分にしか出せない部分の「アート」を掛け合わせることで、吉田町に観光に来てもらう、魅力的に思ってもらえるきっかけを作れたらなあと。

また、世界各国の色々な文化に触れていくうちに「生活が楽しければ、どこの国や場所に行っても楽しくやっていける」ということに気がついたんですよね。
ということは、地元に帰っても自分の好きなことを表現していたら楽しい生活ができるじゃん!と。
アートやスケートボードも好きだし、東京タワーもかっこいいけど、やっぱり自分がもっともっと好きなのは「自然があるところ」だなと思って、農業に必然的にたどり着いた感じですね。

なるほど。若松さんは新たなチャレンジをする際に、どういったマインドを持っているのでしょうか。

とりあえずやってみよう、の精神です!
やりたいと思ったらやった方がいいし、一歩を踏み出す際に素直になってみるといいと思います。
あとは、身近にある物や自分の好きなものとかを思い起こして、何か小さなところから新しい試みを始めていくとハードルが下がっていいかもしれませんね。

そういったマインドはいつからなのでしょうか。

小さい頃からやりたいことを作ってきたタイプなのかなと思います。
近所の公園で遊ぶ際に、野球のルールをちょっと工夫して特別にして遊んでいました。そこにあるものを使って最大限生かしたり発明したりすることは得意ですし、普段からも意識してきますね。
あとは、発信することと継続することも大事かなと思ってます。

吉田町が「旅の目的地」になってほしい

すごく素敵な考えですね。そんな若松さんのこれからの目標はありますか?

最初から変わっていないのですが、農業が続くようにこの場所を、吉田町を、次世代に伝えていくことが最大の目標です。

食べるものがあれば生きていけるし、命を繋いでいけるから、そこを一番大事にしたいなと思っています。あとは人が来たいと思ってもらえるような場所作りというか。手助けみたいなことをしていきたいと思います。

なので、今後は、「食べる場所」と「留まる場所」をこの地で作っていきたいという気持ちがあります。

今まではアパレルブランド「Tangerine」とみかんを作ることに力を注いできましたが、地元の人が集まる場や、外から来た人と地元の人をつなぐ場を作っていきたいなという思いが大きいです。

深みのある甘酸っぱさと爽やかな飲み心地は、まるで吉田町そのもの。

色々なコミュニティスペース、最近増えてきたなという印象はあるのですが、南予はまだまだ少ないですよね。

そうですね。今観光業が抱えている課題として、地元の良さを外から来た人たちに伝えるタイミングや場所が少ないことなのかなと思っています。なので、そういったきっかけ作りをしていけたらなと。
楽しい発見もあるだろうし、そういった刺激のある場所を宇和島でも作りたいなと思っています!
同じような視点を持ったメンバー、仲間が欲しいです。

僕がイメージしているのは、ふらっと入れて集まれる、まるで居酒屋のような気軽さ。それでいて洗練された、カジュアルなコミュニティをイメージしています。
食材はこっちで取れたものを使って、地元の魅力もたくさん知ってもらいたいです!

旅って、目的地がないとあまり行かないと思うのですが、逆に人間は目的地さえあればどこへでも行けるし、人も集まると思うんです。
自分も旅行に行くと感じるのですが、行った先に知り合いがいるとその土地で暮らしているからこそのおすすめの物や場所を教えてもらえるので、より楽しめると思うんです。
実際、観光案内所がその役割を果たしているけれど、ただそこにあるだけじゃなくて、愛情をもってその土地を紹介することで、訪れた人の印象や記憶により残るかなと。

交流がある旅って豊かだなと思います。感情が付随することで記憶に残りますもんね。

そうそう!いい街だったな、良い記憶になったな、と、きっと思い出に残ると思うんです。

若松さんはきっと、素敵な旅を沢山されてきたのだろうなと感じています。

確かに…そうなのかも!
なので、今度は僕が、宇和島や吉田町を訪れてみたい、と思ってもらえるような目的地を作れたら良いなと思います。
まだTangerineや農業との両立、調整などが必要なので準備段階なのですが、前向きに進めていきたいですね。

ラベルはいつも、知り合いのデザイナーたちにお願いしているそうです。
若松さんの「僕は人に恵まれているんです」という言葉が謙虚なお人柄を表していました。

「何もないじゃなく、なんでもある」ということ

愛媛と吉田町の好きなところはなんですか?

ありふれているけど、愛媛は人がやさしい!
山川海全てあるし、気持ちの良い場所だなと思います。昔ながらの喫茶店や電気屋さんなど、昔からある良いものも残っていて、そういったものやスポットを探すのも面白いかな、と!
あと「愛媛」って名前が可愛い!(笑)漢字も柔らかくて良いよね。

吉田町はみかん畑の景色と匂いかな。あとは人の力が強い!確かに年齢層は高いのですが、みなさん知識も持ってますし、足腰も強い!そういったパワーがある土地だなと思いますね。海もありますしね。
なので、逆に言うとなんでもありますよね。

確かに都会のように人工的に作られたものは少ないのですが、土も山も川も海もあるので、自分たちでなんでも作ることができる。
それって、結構最高じゃん?(笑)だからこそなんでもできるなと思っています。

Uターンを考えている方に一言お願いします!

とりあえず帰ってきなよ!
(一同爆笑)
愛媛にはなんでもあるよ!

自分の生まれ育った土地がなくなって欲しくないですよね

そうですよね。一番はそれですね。
だからこそ、若い世代にも農業をしてほしいです!自分で食べ物を作れるので、きっと生活が豊かになりますよ。

Writer – risa
Photographer – reko
Director – moe / momoe

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