東京・神田で“愛媛の四季折々で手に入る食材”をメインとして使用している、イタリア・フランス料理「ワイン食堂 ChatGatto(シャ ガット)」を営む薄田貴志さん、宜子さんの想いとは。

愛媛県今治市出身の薄田(すすきだ)貴志さん。パートナーの宜子さんとともに、東京・神田の土地で、野菜や魚・地鶏やブランド豚など“愛媛の四季折々で手に入る食材”を使用したイタリアとフランスの家庭料理の味や、ヴァンナチュール(自然派ワイン)を愉しめる「ワイン食堂 ChatGatto(シャ ガット)」を営まれています。

東京の土地で愛媛食材に拘った店舗を経営されているお二人は、どういった想いをもって愛媛と関わっているのでしょうか。

今回は、貴志さん、宜子さん、そしてワイン食堂 ChatGatto(シャ ガット)のことをお伺いしました。

目次

貴志さんの愛媛で過ごした高校時代、そしてお二人の出会いまで

貴志さんは愛媛出身とお伺いしていますが、どういった経緯で料理の道に進まれたのでしょうか。

貴志さん

私は今治市で生まれ、幼少期から料理に触れる機会が多くあり、調理科がある高校に入学しました。

調理科の進学先として9割が和食を選ぶ中、僕は洋食の道に進みました。その後、就職先を決めるにあたっての面談ではいったん、和食の道に進みます、と先生方に伝えていたのに、最後の面談で、急に「フランス料理をやりたいです!」と方向転換をしたい旨を伝えたんです。

すごく驚かれましたが、私の意志が強かったので、最終的に先生方も許してくださって。そして、フランス料理の道に進むべく、上京することが決まりました。

とてもパワフルなエピソードですね。急に方向転換をされたのは、フランス料理が好きだったからでしょうか。

貴志さん

学校ではほとんどフランス料理の授業はしていなかったのですが、授業自体が少なかったのでよりフランス料理に興味を持ちました。

就職を機に上京し、フランス料理店で勤務、その後洋菓子店で働いていました。その洋菓子店で働いている時に、ご縁があってイタリア料理のシェフとお会いできる機会があって。その影響もあり、フランス料理からイタリア料理の道に方向転換を行いました。

では、貴志さんはフランス料理店で働かれた後、洋菓子店で働かれていたとのことですが、どうしてお菓子作りの道へ進もうと思ったのでしょうか。

貴志さん

私は、知識や経験の集約によって作られる“一つの洋菓子”に魅力を感じていましたが、洋菓子店で働いてるときに、レストランで働いてる方々と接する機会が度々あったのですが、私はレストランのようにお客様の存在を感じながら料理を提供するという構成が好きなのだなと気がついたんです。

その感覚はある種のエンターテインメントのようだなと思っているのですが、自分がキッチンでお客様や店内の全体的な様子を見つつ、料理を作ることと向き合えるような“一貫して流れを作ることができるような場所”で働きたいと自分の想いに気付き、今に至ります。

そうだったのですね。ありがとうございます。一方で、宜子さんはどのようにして料理の道に進まれたのでしょうか。

宜子さん

私は東京の長閑な町、国立で生まれ育ちました。料理に関しては、元々両親の仕事の関係もあって、自宅に人を招いて食事をすることがよくあるような環境で育ったんです。

なので、そういった背景もあって、進学先は製菓学校を選びました。ケーキ屋さんへの就職も視野に入れていたのですが、最終的にレストランで「出来立てのものをその瞬間に食べる」という料理人ならではのライブ感が自分に合っているなと思って、フランス料理に関わる道を選びました。

その後、都内の何店舗かで働いたのですが、最終的にはビストロの郷土料理や素朴な家庭料理など、“その季節に手に入るものを精一杯楽しむ素朴な料理”に向き合いたいと思うようになりました。

その想いを持ちつつ、「いつか自分の店を」と考えたときに、料理以外の経営部分やマネジメントなど、未経験だった部分が不安で。

そこで、飲食系の会社に所属して実際の店舗立ち上げに参加させていただき、そこで貴志さんと出会ったんです。

その後、実際の店舗運用を通して数字面も含めて経営部分を学んでいく、という経験を初めてさせていただきました。

そうだったのですね。では、そこからどのようにして、この神田にお店を構えられたのでしょうか。

宜子さん

これに関しては、完全にご縁なんです。
つくづく、物件選びは本当にご縁だなと思います。自分たちのお店を構えるにあたって、いくつか都内で候補を見ていたのですが、すぐに契約を決めないと埋まってしまうことも多く…。だからこそ、ここだ!と思った際は迷っちゃダメだと思って。

そんなタイミングで、大通りから1本入ったこの少し静かな土地でたまたま空き店舗がでて、この地に今のお店を構えることにしました。

「お互いがやりたいことをやろう」という関係性

ご縁、大事なのですね。また、店名のChat(フランス語で猫)とGatto(イタリア語で猫)はどちらも「猫」を指しているとのことですが、この路地裏を選んだからこその名付けなのでしょうか。

宜子さん

そうですね、そういった背景もあるのですが、私たちは、イタリア料理(貴志さん)もフランス料理(宜子さん)もそれぞれ自分たちで一貫してメニュー考案を行ったり調理していたりしています。そのため、1つの店舗内で2つの軸が融合しているのですが、決して“半端なお店”として営んでいるのではなく、コンセプトとして猫のように「伸び伸びしているお店でありたい」という願いを込めていて、互いに料理を提供するフランス・イタリアの「猫」の名称を取って、名前をつけることにしました。

1度の食事でイタリア料理もフランス料理も食べられるのは嬉しいことですね。

貴志さん

そうですね(笑)2つの料理を同じ時間で楽しんでいただけるのかなと思います。

宜子さん

食通な方って、路地裏のお店を好まれる傾向にあるのかなあと思うのですが、どちらかというと、フラっと大通りを歩いてたまたま見つけていただいてお店に入ってもらう、というよりもChatGatto(シャ ガット)を目指して来店してくださる方が増えたら良いなと思っていて。

だから、お店の前には店名しか出していないですし、実はメニュー表も価格表も自分たちからはどこにも出していないんです。

だからこそ、一手間ネットやサイトを見ていただいて「こんなお店なんだ。」と“興味”というワンクッションを置いたうえでお店に来ていただけたら嬉しいかなと思っています。

そういった思いがあって、あえてされていることなんですね。2つの軸が融合しているお店とのことですが、実際にお二人が料理面で衝突してしまうことはあったりするのでしょうか。

宜子さん

それが、全くないんです。

私はフランス料理、彼はイタリア料理と、それぞれ別の仕込みをしているのですが、時々、「この食材を持っているから使っても良いよ」と互いに伝え合うことはあったり、互いのメニューを見てすり合わせを行ったり、最終的に味見をしてお互いの声を聞いたりすることはありますが、お互いの料理について何か言うことはほとんどないですね。

すごく素敵な関係ですね。互いの料理にリスペクトしあっているからこそできることなのでしょうか。

貴志さん

そうですね、お互いがやりたいことをやればいいじゃん、と思っていて。

今思うと、なんで揉めなかったのでしょうか。あらためて考えても不思議です。(笑)

おそらくですが、二人とも「素朴な地方料理」が好きなので、ベクトルが同じなのではないかな、と。その軸が根本的に共通項としてあるからこそ、揺れることも衝突することもないのかなと思います。

なるほど。「素朴な家庭料理」を共通点として、国が違っていても基本的に根底の思いが繋がっているからこそなのですね。

宜子さん

そうですね。さらに言うならば、国境はあまり関係がないのかなとも思っています。

イタリアは統一されてからそんなに年月が経っていないですし、地方ごとのアイデンティが元々高い集合体、それがヨーロッパという地域なので、どちらかといえば、手に入る食材をうまく使っていかに豊かな食卓にしていくか、という部分が大事かなと思っています。

日本では大豆から味噌を作るように、ヨーロッパだと乳製品からチーズを作るなど、素材が異なるだけで食材をアレンジするという考え方は世界共通だと感じています。

 東京にいても愛媛の四季を感じてもらうこと

その上で、愛媛食材に拘っているのはなぜでしょうか。

貴志さん

私が愛媛出身だという部分が大きいのですが、18歳で愛媛を離れたため、まだまだ知らないことがたくさんあるんです。なので、もっと知りたいという想いがあり、そういった意味でも愛媛の食材に拘りたいと思っていて。

あとは、四季折々で手に入るものでいかに調理をするのかを考えていく過程に魅力を感じていることも大きいのかなと感じているんです。
例えば、世界中から食材を集めれば、季節関係なくどの食材でも用意することはできますが、それでは自分たちらしくないのかなと思っているんです。

元々は、愛媛出身だからという理由で「愛媛」に拘っているのですが、東京にいても愛媛で過ごしているのと同じようにそのタイミングや季節で採れたものからメニューを考えて、お客様にも四季を感じてもらうことが料理と向き合う上で自然な流れかなと思っています。

貴志さん

1つの地域に絞ったからこそ、食材の採れる様々な地域の違いに、私たちも気づくことができたのかなと思います。

そして何よりも、愛媛の野菜は苦味が控えめで、少し優しい味の感じがしますね。それは、愛媛の風土の特色が活かされた、野菜がもっている特徴の1つとも言えるのかなと思っています。

あとは、生産者のこだわりがしっかり出た食材とご縁をいただいて、私たちが運よく使わせてもらえているなというのは感じます。

自分で育てたお米を餌にした鶏など、できるだけ無添加というこだわりを持っている生産者の方が愛媛には多いのかなあと思っていて。まだまだ知られていない素敵な生産者の方も多くいらっしゃるので、もっとたくさんの方々にその食材の魅力を知って欲しいなと思っています。

やっぱり少し離れた場所で愛媛とつながっているからこそ、気がつくことができた視点があるんですね。

貴志さん

そうですね。

宜子さん

あと、その他の魅力として愛媛の食材でフレンチの料理のメニューを十分に賄える点も愛媛食材に拘っているからこそ見えた視点なのかなと思います。

愛媛の四季折々、そのタイミングで手に入る食材のみを使用しているので、常に無理をしないメニュー作りを心がけています。
例えば、フォアグラやトリュフを使わなくても、愛媛の天然キノコや鳥の白レバーが入ったときに使ったりしますし、イタリアのポルチーニだって、愛媛の干し椎茸がすっごく美味しいので、それだけで十分なんです。

食材を人間に寄せるのではなく、自然に私たちが合わせるというか。食材が採れたら塩漬けや発酵食にして、なるべく長い期間で使っていくという方法を選択しています。

季節と向き合うという素敵な選択ですね。まるで、「伸び伸びしているお店でありたい」とお二人が願って名付けたこのお店のような。

貴志さん

そうですね。だからこそ、今はジャンルは関係なく、「愛媛の食材を通じて表現する」にたどり着いたのかなと感じています。

愛媛はいろいろ気づかせてくれる場所

お二人にとって愛媛はどんな場所や存在なのでしょうか。

貴志さん

いろいろ気づかせてくれる場所ですかね。生まれ育った場所だからこそ、自分自身の根底にあるのかなと思っています。

今まで見えている物の角度だけではなく、「愛媛」を多角的に捉えることで様々な気づきを得られたなって感じることがあるので、私自身は料理を通して愛媛を伝えることで、自分自身を表現している部分もあるかなと思っています。

宜子さん

私は愛媛に行ったことがなかったので馴染みがなかったのですが、行くたびにいろいろな人に出会いますし、本当に人が温かくて良いなあと思うので。なので、今は愛媛に帰りたいね、と言えるような場所になったかなと思います。

最後に

ありがとうございました!最後に、今後の目標を教えてください!

貴志さん

愛媛を通して、日本の食材の素晴らしさをもっと知って欲しいなと思っています。

宜子さん

いつも店頭に同じ食材があるわけではないという点も含め、表面上ではなく食材や土地の食材の素晴らしさについて、自信を持って伝えていけたらなって。

貴志さん

そうですね。自然とともに生きるという点についても、私たちが「愛媛食材を使用した料理」を通して発信することで、自分たちも含めもっともっと、愛媛について感じてもらえたら嬉しいです。

今回ご紹介した場所

ワイン食堂 ChatGatto(シャ ガット)
営業時間:17:00-23:00
定休日:不定休
所在地:東京都千代田区神田神保町1-54-19
TEL:03-5281-8660
Instagram:https://www.instagram.com/chat.gatto/
Facebook:https://www.facebook.com/chatgatto.cantine/
ホームページ:http://chat-gatto.com/

risa / Writer,Photographer

seaside-instagram

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

〰︎ よかったらシェアお願いします 〰
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次