私の町の不思議で魅力的な八百屋

レストランで美しく盛られたサラダ、お弁当のおかずに敷かれたレタス、母親が朝ごはんに出してくれるミニトマト、何気なく普段口にしている野菜が、どんな人に、どんな場所で、どんな思いが込められて作られたのかを考えたことはあるでしょうか。

今回は、「泥臭くドローカルに」生産者と消費者を繋ぐ活動をされているLocal Arctさんをご紹介いたします。


私があの「不思議な八百屋」に出会ったのは、暑い夏の土曜日だった。

土曜日の昼前、休日出勤に励む私は、昼休み真っただ中だ。いつもの定食屋は定休日。
栄養補給をもくろんで、真昼の花園通りをさまよい歩いてはや15分経った。ふと道端を見ると、色とりどりの野菜を所狭しと並べた、八百屋があった。
いや、八百屋というのは、少し違うのかもしれない。後ろには、きれいに整備されたでっかいバンが止まっている。移動販売?キッチンカー?吸い込まれるように、店の前にやってきた。

「いらっしゃい」
最近は、めったに聞くことのなくなってしまった歓迎を受けて少し照れくさい。事務机の上に丁寧にビニール袋に小分けにされた野菜が並べてある。
ピーマン、ニンジン、なす、玉ねぎ。カレーを作るのには困らなさそう。トマトやキュウリ、生のトウモロコシだってある。これでサラダも作れるな。梨のような季節の果物だってある。

何を隠そう、私は自炊に勤しんでいる。生きていくには、食べていくしかない。食べるには自分で作るしかない。
そう言い聞かせて一人暮らしを送ること1年ちょっと。自炊も板についてくると、色々とわかってくる。献立に必要なものすべてが1か所でそろう。
これは、自炊のハードルを下げるうえで、重要なところだ。端っこの机上を見ると、「赤毛瓜」。なにそれ。思わず声が出てしまった。

すると、店員さんらしき若い男の子が、「珍しいですよね。」と話しかけてくる。「表面にひびが入っているのが、熟れている証拠なんです。」おいしいものの見分け方をさりげなく教えてくれる。
今日は自分へのご褒美にカレー作ろっかな。空腹という欲望に駆られて、つい買いすぎてしまった。袋に詰めてくれた野菜たちを、店員の女の子から受け取ったとき、少し温かい気がした。これは、夏の暑さとはまた別のようだ。すっかり昼休みの時間は終わっていた。

この日からというもの、私は毎週土曜日に決まってこの不思議な八百屋へ通うようになった。実は、この八百屋へ通うのが楽しみで、土曜の仕事がまんざらでもなくなったのは上司に秘密だ。

土曜の朝起きて、その日に食べたいものを考えながら出勤し、昼休みに八百屋へ行って、昼ご飯を食べ損ねる。これがすっかりルーティンになったある土曜日、店員さんが話しかけてくれた。
どうやら、私が頻繁に来ていることを覚えてくれているらしい。私は、疑問に思っていたことをぶつけてみる。
愛媛県産に紛れて、県外産の野菜が時々紛れている。時には、キャベツ、時にはニンジン、今日は値上げが厳しい玉ねぎが県外産だ。すると、「基本的には、県内産のものをそろえています。でも、ここで必要なものをすべてそろえられるように、県外産の物も含めて、何としてもそろえています。」「昨日の夜は、キュウリを取りに久万高原町まで行ってたんですよ。」別の店員さんが笑いながら補足してくれる。私は今までなんて傲慢な人間だったのだろう。この店は何でもそろう。これは、サービスではなく、思いやりだった。袋を受け取ったときの温かさは、この思いやりが正体だったのか。この日から、受け取るときに「今日もありがとう」と声をかけるようになった。

この八百屋さんが不思議たる所以は他にもある。私が行くと、いつも私より先に野菜を眺めているおばちゃんがいる。この間は、ゴーヤチャンプルーの作り方を教えてくれた。だからこの人はゴーヤのおばちゃん。
ある日、ゴーヤのおばちゃんが、「ここは一人暮らしでも使いきれるように、小分けにしてくれるからいいよねぇ」といった。さすがはゴーヤのおばちゃん。目の付け所が違うね。私は全然気がつかなかったよ。土曜の夜、晩御飯を作り終わった後、冷蔵庫が空っぽになってすっきりするのは、こんなからくりがあったのか。

何度も通って、世間話をしているうちに、この八百屋の代表をしている店員さんは、私と同い年であることが判明した。名前は藤岡君。なんと、社長さんだそうだ。なんで八百屋をやってるの?無礼も無礼なことをつい聞いてしまった。「人の集まりをデザインしたいんだ」と藤岡君は言う。きっと、造語なんだろうけれど、すっかり常連の私には、しっくりくる返答だった。

ゴーヤのおばちゃんだけでなく、他のおばちゃんにも出会って、たくさんの知恵袋をもらった。いつも私に気づいて、かごを手渡してくれる店員さんは、まだ大学生だという。この間、興居島で島おこしを頑張っていることを教えてくれた。この八百屋で初めて買い物をしたときに商品を手渡してくれた女の子は、実習に来ていた高校生だった。
藤岡君のエネルギーに惹かれて、何か成長したいと頑張る人が集まってきているようだった。私たち商品を買う側も、野菜を売ってくれる店員さん側にも、様々な人が集まって、知らぬ間に交流が始まっている人の集まりをデザインする。つまりはこういうことなのか。

私が彼に教えてもらったことはほかにもある。ある日、いつも通り手書きのポップを掲げて、大量のキュウリが店先に並んでいた。このキュウリの量はどうしたの。私が藤岡君に聞くと、「農家さんが、キュウリのできすぎで困っていたから、買い取ってきた」と笑顔で話していた。
私が普段、何気なく手に取って食べている野菜1つ1つには、それを作った人がいて、色々な思いが詰まって私たちの手元へ届いている。そんな当たり前のことに今更気づいた。これは責任重大だ。頑張って料理して、おいしく頂かなければ。藤岡君は、生産者の農家さんと、私たち消費者を繋ぐリレー走者だと思った。

今日も土曜日。でも、前までの憂鬱な土曜日ではない。今日は何を作ろうか。いつも通り、「魅力的な八百屋」へ向かっている。頬を撫でる風はひんやりとして、街路樹の葉はすっかり赤く染まっていた。

-藤岡裕太-
2000年生まれ。愛媛県出身。
名古屋大学工学部環境土木建築学科卒。
株式会社Local Arct代表取締役。
高校在学中、地方創生に興味を持ち、2017年愛媛大学社会共創コンテストで地域課題部門奨励賞を受賞した。
大学在学中から現在の産直事業を始め、2022年7月に株式会社Local Arctを設立。「人の集まりをデザインする」をコンセプトに、「泥臭く、どローカル」に産直事業やレンタカー事業を愛媛県各地で展開している。若者が地域に集まる、活動できる、学べる環境を整えるべく活動中である。

―株式会社Local Arct―
2022年7月設立。
地域というLocalと行動を表す Actに加えて、代表自身が最終的には建築を介して人の集まりをデザインしたいという想いから、ArchitectureのArcを合わせたことが由来。現在は、毎週土曜日の花園通りでの移動販売、三津浜商店街内での無人販売、各種イベント出店、愛媛県内各地の産直コーナーでの販売、弁当などの配送、レンタカー事業など幅広く事業を行っている。

―出店情報―
・花園土曜産直市:
松山市花園通り 毎週土曜日午前10時-午後2時頃まで。少雨決行。雨天中止。 ※天候によって中止となる場合があります。
・花園日曜市:
上記同様、松山市花園通り 毎月第4日曜日に開催。
・無人販売:
松山市三津2丁目11-14(三津浜商店街内)
・ホームセンター併設産直コーナー:
値札シールのLocal Arctが目印。
・レンタカー:2022年9月より新たに開始。予約・申し込みは、Instagramの@golocal_rentacar_56経由で。
・Instagram:@local_arct@golocal_rentacar_56
・Twitter:@Local_Arct

reko / Writer・Photographer

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